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オープン・イノベーションの原動力 Google、Intel、GEから読み解く「CVC成功のカギ」

リーマンショック後、一時は下火となったCVC(Corporate Venture Capital)だが、ベンチャー企業の増加などに伴い、近年、再び脚光を浴びている。新たな潮流としては、大手企業によるCVC、特にテクノロジー関連のスタートアップへの投資が活発化しており、戦略や投資形態にも変化が見られる。

Google VenturesやIntel Capital、GE Venturesなど、CVCを通して長期的な成果を上げている企業例から、成功へのカギを探ってみる。

VC でもM&Aでもない「CVC」とは?

(写真=Photon photo/Shutterstock.com)

ベンチャー・キャピタル(VC)やアクセラレーター、M&Aなどと並び、オープン・イノベーションの資金調達手段として活用されているCVCだが、その特徴とはどのようなものなのだろうか。

CVCとは、企業が自己資金を元手に、上場していないベンチャー企業への出資や支援、買収といった投資活動を行うシステムをさす。一般的なVCでは、企業を含む多数の投資家から集めた資金でキャピタルゲインを狙うが、CVCは通常、単体の投資家=企業が直接投資するか、あるいはCVCファンドを設立し、自社の投資部門や投資子会社を通して運用する。かつては外部VCに委託するケースも多かったが、近年は減少傾向にある。

CVCでは、自社の事業シナジー(スタートアップとの提携によって得られる相乗効果)が期待できる分野に、重点をおいて投資できるという利点がある。CVC本来の目的の一つといえるだろう。組織内・組織外のリソースを融合させるという点ではM&Aと共通するが、M&Aが外部のリソースを内部に取り込むのに対し、CVCではリソースの基盤は主に外部に置かれたままとなる。

この場合、実際に事業シナジー創出に向けたR&D活動を行うのはあくまで投資先のVC企業であるため、それに伴う労力やリスクを最低限に抑えることができる。経済的な利益としては、自己資本を投じるため、キャピタルゲインを100%自社の利益に転換できることが特徴だ。VCのように、キャピタルゲインの一部を手数料や報酬料として受け取り、残りをファンド投資家に返済する必要がない。

特に近年はVCへファンドの運用を委託するタイプのCVCに代わり、自ら運用する大手企業が増えている。Googleのように、投資先のスタートアップを最終的に買収し、傘下に置くケースも珍しくはない。

こうしてCVCの主なメリットだけを並べると、いいことずくめという印象を受けるが、当然ながらデメリットもある。最大のデメリットは「コスト」だろう。投資対象として価値のあるスタートアップ発掘も含め、CVCは相当の時間とコストを要する。またCVCが確実に利益を生み出すという保証もない。

CVCブームが再燃?オープン・イノベーションの原動力

CCB Insightsの調査によると、2016年第1~第4四半期のCVC件数は780件。2015年から54件増加、2012年から391件増加と、飛躍的な伸びを見せた。また2016年は、Sony Innovation FundやBaidu Ventureなど、107社が新たにCVCを設立し、記録を更新している。2000年初頭にピークを迎え、いったん【冷却した】CVCが再び脚光を浴びている要因としては、ベンチャー事業の拡大があげられる。その根底には、企業のビジネスに対する概念の変化が考えられるのではないだろうか。

かつて多数の企業が組織内部で生み出そうとしていたイノベーションだが、今や外部との提携なしでは困難な時代が訪れている。目まぐるしく変化する市場の需要や、テクノロジーの急激な進化などに迅速に対応していくには、自社開発へのこだわりを捨て、外部のリソースを効率的に取り入れる柔軟性が必須となる。

こうした背景を踏まえると、オープン・イノベーションの原動力となるCVC熱が再燃したことも、ごく自然な流れだと納得がいく。

最もCVCが活発な8社とは?

具体的にどのような大手企業がCVCを最も積極的に行っているのか、CB Insightsが2016年のCVCをまとめたデータから見てみよう。トップ8は下記のとおりだ。

1位 Intel Capital
1位 Google Ventures
3位 Salesforce Ventures
4位 Comcast Ventures
5位 Qualcomm Ventures
6位 Cisco Investments
6位 GE Ventures
8位 Bloomberg Beta

2014年からのデータによると、これらの企業は巨額のCVCを継続している。思いどおりの成果を上げられず、断念を余儀なくされる企業も多い中、成功と失敗の明暗を分ける要因が存在するのは明らかだ。

イェール大学マネジメント・スクールのソン・マ助教授が2016年に発表したレポートによると、CVC活動のライフサイクルの中央値はおよそ4年間だという。46%のCVC活動が3年以下で消え去り、10年以上継続してCVCを行っている企業は27%しかない。

「CVCの草分け的存在」Intel Capital 16年間で122億ドルを投資

最大のCVC規模を誇るIntel Capitalは、1991年以来、世界57ヵ国・地域で1,500を超えるスタートアップに総額122億ドルを投資してきた。2017年第3四半期だけでも69社に、総額5億4,050万ドルを投資している。そのうち28社は新たな投資先である。その期間に19社が買収され、6社が新規上場している。

最近(2017年11月1日~16日)、投資を行ったスタートアップは、超速レーザー・システムを開発するKapteyn-Murnane Laboratories、AR & VR用プラットフォームのCY Vision、スマートホーム向けIoTソリューションを提供するIOTASなどだ。

Intel CapitalはCVCの主要カテゴリを4つに分け、投資戦略を明確化している。「エコシステム(自社商品が採用されている商品をサポートするための技術)」、「市場開発(新興市場における技術の採用を加速させる企業)」、「ギャップ・フィラー(自社商品あるいは市場の需要に応える上で、必要な技術を提供している企業)」、「アイズ・アンド・イヤーズ(現在は必要ないが、3~5年以内に役立つ可能性のある新興技術)」のいずれかへ集中的に資金を投じることで、最終目的を定め、市場サイクルに沿った効果的かつ効率的な投資を実践している。

Intel CapitalのCVCに対するアプローチが明確に反映されている例をあげると、1999年、64ビット・マイクロプロセッサ「Itanium」(2001年発売)の開発における、「Itanium 64ファンド」の立ち上げがある。Itaniumを自社製品に採用する企業へ、総額2億5,000万ドルを投資するという試みだ。

同じく2002年、デュアルバンド高速Wi-Fi通信Band Wireless-802.11の販売を促進する意図で、Wi-Fiネットワーク関連の企業に1億5,000万ドルを投じるCVCを立ち上げている。その結果、2003年に発表した「Centrino」(CPU、チップセット、無線LAN回路の3点セット)の売り上げに大きく貢献した。

ともに事業シナジーにおけるリターンと、CVCによる投資リターンのバランスが取れている。CVCで出費や時間ばかりがかさみ、期待したような成果が上がらない例は少なくないが、そうしたケースでは、事業シナジーと経済的なリターンのアンバランスさが目立つ。

Intel CapitalのCVC戦略には、「同じ分野で複数のスタートアップに投資し、競争心をあおる」という傾向が見られる。Intel CapitalがCVCを通し、単独の企業の成功よりも、新興技術の発展や市場セクターを刺激することを重視していることがわかる。こうした技術的貢献を最優先するスタンスも、継続的なCVC成功のカギを握っているはずだ。

Google Ventures 強みはトップレベルの専門家による強力なサポート

Google Venturesは、Alphabetの投資子会社として2009年に設立された。Intel Capitalに続くCVCの旗手として、これまでに300社を超える企業に投資を行っている。世界トップレベルの技術者、設計士、科学者、マーケターなどが集結し、総合的にスタートアップを高みに引き上げる強力なサポート体制が、最大の強みとなっている。CVCを成功させる上で資本はもちろん、専門分野における豊富な知識と経験は必須となる。

Google Venturesは、「消費者」「ライフ・サイエンス及びヘルス」「データ及びAI(人工知能)」「エンタープライズ」「ロボティクス」の5分野に投資している。配車アプリの「Uber」、決済サービスの「Stripe」、ビジネス向けチャット「Slack」など、これまでに投資した一部のスタートアップは、ユニコーン(時価総額10億ドル以上で非上場の企業)に育っている。

また、国際大手に買収されたスタートアップも多い。eコマースの「Jet.com」は2016年にウォルマートに、サードウェーブコーヒーの代表的存在、「Blue Bottle Coffee」は2017年にネスレに買収された。スマートホーム機器の「Nest」はGoogleが買収している。

2017年も勢いは衰えず、サンフランシスコでがんの免疫療法の創薬・開発を行う「Arcus Biosciences」(シリーズC)、ユーザーが自由にカスタマイズや拡張が可能なeコマース・プラットフォーム「Reaction Commerce」(シリーズA)、web上に公開されている情報を分析することで未来を予測する「Recorded Future」(シリーズE)、産業ロボットを開発している「Veo Robotics」(シリーズA)など、さまざまな分野のスタートアップに精力的に投資している。

技術と資本、専門知識、インフラを融合したGE VenturesのCVC活動

GE Venturesはゼネラル・エレクトリックの投資子会社として、2013年に設立された。「ソフトウェア及び分析」「高度な製造及びエンタープライズ」「エネルギー及びIoT(モノのインターネット)」「ヘルスケア」を主要投資分野としている。

過去50年以上にわたり蓄積してきた技術と、世界中に張り巡らされたネットワークを活用し、社会に貢献する新たなイノベーションの創出を支援している。GE VenturesのCVC活動は、技術と資本、専門知識、インフラを融合させることで、事業のさらなる成長・促進を重視している。

これまでに、医療コーディネーターのQuantum Health、節電ソリューション・ソフトウェアのeVolution Networks、リアルタイム・ビッグデータ分析ソフトのDataTorrent など、多数のスタートアップを支援している。AI医療診断ソフトを提供するArterys、ビックデータ・プラットフォームのEqualumなどが、最近(2017年11月)の投資先だ。

トップレベルの支援体制で、ともに成果を上げるという姿勢が重要

しかし、再燃するCVCの裏で、スタートアップへの投資環境が徐々に過酷になり始めているのも事実だ。新鮮な発想だけではなく、本当に優れた技術や知識、そして成長の可能性を確信させるスタートアップだけに絞り込まれている。

こうした観点から、すでに実績のあるスタートアップにCVCが集中しがちだが、CVCは大手企業のさらなる成長とともに、未来を支える新たな才能を育て上げる役割も担っているはずだ。企業にとっては単に資金を投じるだけではなく、トップレベルの支援体制を整え、長期的展望を持って「スタートアップとともに成果を上げていく姿勢」が、そしてスタートアップにとっては「与えられたチャンスを最大限に活かす意気込み」が、最高のパフォーマンスを引き出すカギとなるだろう。

(提供:MUFG Innovation Hub

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