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SaaSスタートアップの資金調達とその動向

近年、SaaSスタートアップが花形になるにしたがって、各スタートアップ企業の資金調達は競争が厳しくなっている。

そのような環境下でスタートアップ企業が首尾良く資金調達を果たすためには、各経営ステージにおいて期待される売上規模や業態、適した投資家タイプを理解することが役に立つ。今回は、SaaSの現状を確認するとともに、売上規模などの理解を助けるベンチマークとなり得るツールを紹介する。

SaaSの現状

(写真=TierneyMJ /Shutterstock.com)

SaaSは「Software as a Service」の略で、ソフトウェアを、利用者の必要に応じWebなどを通じて提供するサービスをさす。「クラウド」や「ASP(Application Service Provider)」という言葉も同様の意味で使われることが多い。

SaaS業界には「T2D3(Triple, Triple, Double, Double, Double)」という言葉がある。これはSaaSスタートアップの成長スピードを表現したものだが、単なる印象論ではなく、実際に米国を拠点とするSalesforce、Marketo、ZendeskなどのSaaS企業が、売り上げ100万ドル(1ドル110円換算で110億円)に到達するまでの5年間における成長率の高さを示したものである。

これほどまでに急成長を遂げる企業が実在するということは、投資家サイドの期待水準も高まっていることを意味する。こうしたスタートアップの成長過程でどの程度の業績が期待され、それに対してどの程度の調達額が見込めるのかを示した資料が「SaaS Funding Napkin, the 2017 edition」である。

スタートアップのロードマップ「SaaS Funding Napkin, the 2017 edition」

シリコンバレーの投資家クリストフ・ヤンツ氏が公表し、500 Startups Japanが翻訳した「SaaS Funding Napkin, the 2017 edition」は、各フェーズのスタートアップに何が期待されているのかを具体的な数値で示しており、起業家および投資家にとってのロードマップともなり得るものだ。

ヤンツ氏は、エンジェルVCであるPoint Nine Capitalの共同創業者でZendeskなどのSaaSスタートアップに投資していることでも知られる。さらに、「SaaS Funding Napkin, the 2017 edition」はSaaSについて知見を有する複数の投資家のレビューも受けたとされる。以下ではこれに沿って、SaaSスタートアップに期待される業績とそれに対応する資金調達額の規模感を確認してみよう。

プレシード期およびシード期の特徴と事例

いまだ売り上げが計上されていないプレシード期においても資金調達ができるケースはある。市場調査を通じて強いニーズが示されている、あるいは見込み客リストや潜在的なパイロットユーザーが存在することなどが条件だ。想定される投資家は知人やエンジェルであり、調達額は20万~50万ドルが相場となる。

やがてマネタイズが始まるシード期においては、マーケットフィットが確認されることにより、エンジェルやマイクロVCからの投資が期待できる。売上規模は、月間の経常収益を意味するMRR(Monthly Recurring Revenue)ベースで0~5万ドルであり、調達額は50万~250万ドルというレンジだ。

たとえば、SaaS上でヘルプデスクサービスを提供する上述のZendeskでは、シード期においてヤンツ氏から50万ドルの資金を調達している。

株式発行段階、シリーズA、B、Cの特徴と事例

シード期を終えて順調に成長を遂げた場合、VCが優先株などを引き受けることにより本格的に投資が行われる時期が到来する。株式の発行段階に応じてシリーズA、B、Cなどと呼ばれるフェーズがその時期である。

シリーズAでは、MRRが10万~25万ドルと想定され、調達額は500万~1,200万ドルと多額になる。ただし、その分だけ成長率への要求水準も高く、上記の売上規模に達するまでに1年から1年半というスピード感が必要となる。

また、シリーズBではMRRが40万~120万ドルで調達額は1,000万~4,000万ドル、シリーズC ではMRRが100万ドル以上、調達額は2,000万ドル以上という目安が「SaaS Funding Napkin, the 2017 edition」においては示されている。

なお、シリーズA以降では、明確なマーケットフィットが確認され、一定規模以上のスケールが見られる段階にきているが、シリーズB、Cでは、それに加えて法人向けにも対応できるだけのセキュリティーレベルやコンプライアンスが求められるという特徴がある。

経営ステージが進行するにつれて求められる組織体制

SaaSスタートアップの経営ステージが進行するにつれ、プロダクトの品質やマーケットへの浸透といった面だけでなく、チームの組成や内部管理体制の面でも成長を遂げる必要がある。

シード期までは、創業メンバーの技術力や営業力だけに依存する経営でも許容されるが、シリーズA以降では、優秀な技術者を採用して部門別の管理を行えるほどの体制が期待される。さらに、シリーズB以降の資金調達を目指すのであれば、各部門でシニアレベルの管理者が育っていることが必要条件といえる。

また、第三者割当増資を行うシリーズA以降では、当然、将来の株式公開という選択肢も視野に入っている。監査法人と任意監査やレビューの契約を締結し、会計処理やディスクロージャー、そのバックボーンとなる内部統制の構築・運用に関して指導を受けるなどの対応も必要となる場合が考えられる。

地域的な違いも意識する

これまで紹介してきたのは、SaaSスタートアップにおける業績や資金調達額は主に米国における数値ではあるが、日本においてもベンチマークの一つとして有用なものと考えられる。

ただし、日本におけるプロダクトのスケールや資金調達の規模は米国より小ぶりになることは意識しておきたい。たとえば、2017年9月に東証マザーズに上場したクラウド会計サービスのマネーフォワードの申請直前期(2016年11月期)の売上は約15億円となっており、主に国内市場をターゲットとするスタートアップの規模感がうかがえる。

日本国内におけるクラウドサービスの市場規模は2015年の1兆円から2020年には3兆円に拡大するとの試算もある。この数値は、IaaS(Infrastructure as a Service)やPaaS(Platform as a Service)などを含んだものであるが、隣接領域となるこれらのサービスも合わせたSaaS界隈の市場規模にはまだ伸びしろがあるといっていいだろう。今後もT2D3の成長を遂げるスタートアップが日本において出現することに、期待が寄せられる。 (提供:MUFG Innovation Hub

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