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都市モビリティ実現へ踏み出すルノー パリの移動手段に革命を与えるオープン・イノベーション「CityMakers」

ルノーがフランスのスタートアップアクセラレーターNUMAと提携し、アクセラレーター・プログラム「CityMakers」を立ち上げた。「持続可能な都市モビリティへの移行」を目指し、現在はパートナー企業や専門家と協力し、6つのテスト・プロジェクトを進行させている。都市の急成長が引き起こした公害や交通渋滞、インフラへの圧力を軽減することを目的とした、CityMakersの具体的な取り組みや今後の展望を見てみよう。

「アーバン・モビリティ」とは?

(写真=manjik/Shutterstock.com)

ルノーはアーバン・モビリティ・ソリューションの開発に向け、10ヵ月間のオープン・イノベーション・プログラム「CityMakers」を立ち上げた。フランスのスタートアップアクセラレーターNUMAがパートナーを務めるほか、AXAやパリ市、RCI銀行などがプロジェクトに参加している。スタートアップから専門家、民間・公共の利害関係者までが協力し合うことで、革命的なアーバン・モビリティ・ソリューションを開発することが目標だ。

最近よく耳にするようになった「アーバン・モビリティ(都市における移動性)」とは何なのか。

世界中で広がる都市化に伴い、生活の利便性が改善する反面、人口の集中、渋滞、排気ガス、住宅不足、犯罪の増加といった問題が深刻化している。「アーバン・モビリティ」という言葉自体は、これらの個人、あるいは人類全体に関わる問題への対策を含めて使用される場合が多いようだ。

近年、各国の政府機関や企業は「持続可能な開発」の一つとして、アーバン・モビリティの向上を目指している。多くの企業は各産業分野において関連するソリューションを探しており、自動車産業であれば公害や交通渋滞の緩和、自動車の安全性向上などが、大きな課題となっている。

優先課題を具体化 ソリューションをスタートアップと探索

ルノーがCityMakersを通して目指しているのは、革命的なソリューションによるアーバン・モビリティの向上だ。たとえば「イル=ド=フランス地域(パリを中心とした地域)における、さまざまな交通手段の簡素化」「EV(電気自動車)開発および都市におけるインフラ構築の促進」「モビリティ・サービス向上の手段」など、優先すべき課題を具体化し、それに対するソリューションを検討・開発・提供を行う。

プロジェクト開始にあたり2017年9月にスタートアップ7社が選ばれ、現在は提携企業や専門家とともにCityMakersの課題へのソリューションを開発中だ。

選ばれたのはカーシェアリング・スタートアップOUICAR、VR(仮想現実)、AR(拡張現実)、MR(複合現実)リアルタイム・アプリ開発スタートアップPersistant Studios、ビッグデータを活用した情報サービスを提供するDalberg Data Insightsなど、革命的な発想と技術を兼ね備えた期待の新星ばかりだ。チームに分かれてそれぞれが得意とする課題に取り組むことで、ソリューション開発プロセスの効率化が期待できる。結果は、パリ市内での3ヵ月のトライアル期間後(10~12月)、2018年1月のデモ発表会で発表される。

このトライアルと並行し、未来の都市への理解を深める目的で、パートナー企業主催によるイベントが月1度のペースで開催されている。イベントは世界最大の共有型経済コミュニティ「OuiShare」やフランスのメディア「Silex ID」の協力のもと、ルノーが2017年3月にパリで開設したOpen Innovation Labで開催されている。

イル=ド=フランス地域の大気汚染解決に向けた動き

CityMakersのような先進的なアーバン・モビリティへの取り組みは、いずれパリから他の欧州の大都市へ、さらには世界の大都市への広がりが期待できる。ルノーがCityMakersの設立に踏みきった背景には、パリの深刻な大気汚染問題があり、大気汚染の25%が道路交通に由来すると報告のあるイル=ド=フランス地域は、大気環境改善が早急に求められている地域の一つだ。

対策の一環として2010年からEVが投入されているものの、登録車台数は7年間でわずか2.7万台。2015年だけでも620万台を売り上げた内燃エンジン自動車とは、比べものにもならない。政府と消費者との間で大きな温度差があることは明白だ。

なぜEVの普及が低迷しているのか————ルノーはその点に着目した。イル=ド=フランスが抱える問題を解決する上で、効率的かつ効果的なエコシステムの構築が必須となる。政府は充電ポイントの増設や補助金、優遇策を用いて、消費者のEVへの移行と購入促進を試みている。この試みは自動車メーカーや関連企業からの支援を得ることで、より大きな効果を狙うことが可能となるだろう。

支援の一例をあげると、ルノーはパリにおけるEVの利用動向への理解を深める目的で、提携企業から入手した相互参照データの利用を検討している。分析結果を意思決定ツールのプロトタイプ開発に役立てることもできるだろう。

スタートアップと共同で収集したデータを交通量の軽減に活用

車載通信端末などを利用して収集されるデータ量は増えているにもかかわらず、現状としては十分に活用しきれていないと指摘されている。そこでCityMakersは、新しいアイデアを持ったスタートアップと共同で、膨大なデータを交通量の軽減につなげる提案をしている。

すでに検討されている例としては、収集されたデータから日常的な自動車利用パターンを分析し、リアルタイムの交通状況情報と融合させることで、交通量の軽減を視野に入れた最適な交通手段を導き出すというものがある。

具体的には自家用車と他の移動手段(徒歩、自転車、バス、電車など)の組み合わせ、より手ごろで節約に繋がる駐車場の活用方法の提案も考えられるだろう。

また、パリのような大都会で収集されたデータをオープンソース化すれば、交通量の軽減や交通渋滞の回避、交通事故の防止、駐車場の空きスペースの確認といった日常的な生活改善から、建設現場などでも活用できる革新的な発想が生まれる可能性が高まる。

パリの住民の自家用車利用率は11%程度なので、既存の経路検索アプリなどは、公共の乗り物を利用するという前提で経路が表示されているものが多い。「残り89%が公共手段を利用しているのであれば、十分交通量は軽減されているのではないか」との見方もあるが、パリの深刻な大気汚染や生活環境を考慮すると、たとえ11%の自家用車利用率であっても相応の対策が必要のようだ。

「エネルギー転換法」の後押しも!?車以外の移動手段促進が義務化される

欧州環境機関(EEA)は2016年、「大気汚染によって年間46.7万人が死亡している」との警告を発した。なかでもパリの大気汚染は過去10年間で最悪の水準まで悪化しており、2016年は4.8万人が死亡し、同国の死亡原因の3位になったと報告されている。これほどまでに深刻な公害問題を改善するには、都市の中心部における交通量の厳しい制限が重要となる。

取り組み例をあげると、パリでは2016年1月以降、2000年以前に登録されたディーゼル車の利用が禁止されている。また、各自動車のウインドースクリーンにエコレベルを5段階で示したステッカーの表示が義務づけられた。レベル5(1997年~2000年に製造された自動車)は路上での走行が禁止されているほか、カテゴリ外(1997年以前に製造された自動車やバス、トラック)は、平日の20時~8時の時間帯と週末以外は市内での走行が禁じられている。

この改革にあたり、アンヌ・イダルゴ市長は「交通手段の利用に対する人々の意識改革を促進することが必須」と述べた。また、2030年以降のガソリン車の乗り入れ禁止を検討しているほか、2040年におけるガソリンおよびディーゼル車の完全廃止を宣言している。

交通量の制限実施に伴い、代用となる移動手段の発展は重要だ。すでにカーシェアリングや電動自転車のレンタル・サービス、完全電気シャトルバスといった交通手段が普及し始めているが、あくまで単体で利用されるケースが圧倒的に多いのが現状だ。アクセスが悪い目的地の場合、パリの住民は面倒くさがって車を使いたがるが、複数の異なる手段を組み合わせてより環境に優しい方法を提案できるなら、行きにくい目的地でも車以外で外出することが可能になるはずだ。

ルノーはルノー・ゾエとパリ市から収集したデータから輸送に関する知識を深め、さまざまな移動手段の可能性を探るとともに、随時、新たな情報を更新していく。折しもフランスでは「エネルギー転換法(2015年制定)」第51条に基づき、2018年1月から従業員数100人以上の企業に対し自家用車の利用を見合わせ、他の移動手段を促進する義務が課せられる。「CityMakers」の課題は、こうした法的な動きにも対応していると言えるのだ。

「柔軟性あふれる継続可能なアーバン・モビリティへの移行を目指し、革命的なソリューションを実験する」という「CityMakers」というコンセプトの対象となる都市は、もはやパリだけではないだろう。世界中で加速する都市の人口集中がもたらす問題の一つの緩和策として、この試みは大きく貢献していくのではないだろうか。(提供:MUFG Innovation Hub

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