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5年間で3倍に膨らむ世界のCVC 日本の金融機関における取り組みは

事業会社が潤沢な資本力を背景に有望なベンチャー企業への投資を行うCVC「コーポレート・ベンチャー・キャピタル(Corporate Venture Capital)」。鉄道、不動産、新聞社、テレビ局など、かつてはベンチャー投資に縁遠かった業種の企業までもが積極的に活用するようになった。もはや社内リソースだけでイノベーションを生み出す時代ではないことを象徴している。

活況を呈するコーポレート・ベンチャー・キャピタル(CVC)

(写真=Michael R Ross/Shutterstock.com)

CVCは、事業会社が戦略目的をもって社外のベンチャー企業などに投資を行うものである。戦略目的とは、自社の事業分野とシナジーを生む分野に投資することにより、自社グループの成長につなげることを意味する。

その点で、主としてキャピタルゲインを目的とする投資ファンドやベンチャーキャピタル(VC)などとは一線を画す。CVCは、ともすれば閉塞感を抱きがちな成熟企業にとって、オープン・イノベーションを通じた成長戦略の一環という意味合いを持っている。

社内の開発部門などでイノベーションにつながる技術をゼロから生み出すよりも、すでにシード期、あるいはアーリーステージにあるベンチャーと共同開発できることはメリットが大きい。また、出資を受けるベンチャー企業にとっても、大企業から金銭以外の方法で支援を受けられることは魅力だ。たとえば、テレビ局が設立するCVCと連携することによって、効果的なメディアミックスが可能になるなど、資金援助を超えた恩恵が期待できる。

その一方で、CVCの最適な運営方法が確立されていないがゆえに、危うさもある。投資対象の発掘、投資先の選定基準、シナジー発現につながる共同開発の方法など検討課題は多く、期待した結果が得られていないCVCも少なくないのが現状だ。

日本においてCVC設立の動きが活発化しはじめたのは2011年ごろである。主に内部留保を蓄えてきた事業会社が、戦略目的の投資を増やしていった。事業会社の業種は、電機や製薬、化粧品などの製造業から商社、IT、通信などのサービス業に至った。

特に近年は、冒頭であげたような業種においても積極的姿勢が見られ、2013年1月のフジ・スタートアップ・ベンチャーズ(フジテレビジョン)、2015年4月の31 VENTURES(三井不動産)、電通ベンチャーズ(電通)、2016年12月のJR西日本イノベーションズ(JR西日本)、2017年4月の朝日メディアラボベンチャーズ(朝日新聞社)など、事業会社によるVCやベンチャー投資部門の新設が相次いだ。

また、2017年5月の初回クロージングで10兆円を超える出資コミットメントの取得を発表したソフトバンク・ビジョン・ファンド(ソフトバンクグループ)は、規模的にも注目度の大きいCVCといえる。

2017年7月には、トヨタ自動車の子会社で人工知能を研究する米国Toyota Research Institute Inc(トヨタ・リサーチ・インスティチュート)が、有望ベンチャー企業への育成に特化したToyota AI Venturesを設立した。同社が重点的に投資する分野は「人工知能」「ロボティクス」「自動運転・モビリティサービス」「データ・クラウド技術」の4つだ。

海外金融機関におけるCVC動向

一般財団法人ベンチャーエンタープライズセンターの「ベンチャー白書2016」によると、世界のCVCへの投資金額は2011年に23.1億ドルだったのに対し、2016年は77.1億ドルと3倍以上になっている。

このようなCVC活用の潮流は金融業界においても例外ではない。

スペイン最大手銀行のサンタンデール銀行は、2014年7月にFinTech(フィンテック)にフォーカスした1億ドルのファンドであるサンタンデール・イノベンチャーズを立ち上げた。

同行では、2015年5月にイスラエルのモバイル決済ベンチャーMyCheck(マイチェック)に対する500万ドルの投資を発表したのを皮切りに、ブロックチェーンを活用した決済・送金サービスのRipple(リップル)、B2BソーシャルプラットフォームのTradeshift(トレードシフト)など10社超に投資を行っている。2016年には、AI分野などへの投資強化を目的にファンド資金を2億ドルまで引き上げた。

また、スペインなどを拠点とする大手銀行BBVA(ビルバオ・ビスカヤ・アルヘンタリア銀行)は、デジタル分野に先進的に取り組んでいる銀行として知られている。同行が運営するCVCのBBVAベンチャーズは、2013年にはマーケティング会社Radius(ラディウス)、2015年には仮想通貨決済サービスなどを提供するCoinbase(コインベース)に投資を行うなど積極的な動きを見せた。

ただし、BBVA ベンチャーズ自体による投資は2016 年 2 月に終了しており、以降は従来型VCであるプロペル・ベンチャー・パートナーズを通じてFinTech投資に関与している。これは米国法に準拠・対応するためとの見方もあるが、金融分野でのシナジーを追求し、ベンチャーとの協業を促進する姿勢とも考えられている。

この他にも、香港を拠点の中心とするHSBCでは、FinTech投資部門が2億ドルのファンドを組成し、主としてFinTech関連のスタートアップ企業への投資を行った。ロシアのズベルバンク、米国Citibankなど欧米の各金融機関でも同様の動きが広がっている。

金融機関が持つ資金と経営ノウハウ、ベンチャー起業が持つ柔軟性と創造性。これらを連携させることで、FinTechによるイノベーションは加速する。前述のRippleは国際送金の即時決済を実現し、Tradeshiftは商取引を電子化することで効率的な業務を可能にした。CVCがこれらの技術開発を後押ししているのだ。

日本の金融機関における戦略投資

日本の金融機関においても、子会社などが組成したファンドを通じて、FinTechベンチャーへの投資が行われるようになっている。

2016年3月、みずほ銀行は、グループ会社のみずほキャピタルが組成した「みずほFinTech ファンド」への出資契約を締結した。同ファンドは2016年11月に、ビジネス向けクラウドサービスを提供するマネーフォワードに対して投資を実行している。

また、SBIグループでは、2015年12月にSBIインベストメントが「FinTech ファンド」を立ち上げた。2016年6月時点で300億円の資金を集めており、みずほ銀行も同ファンドに出資している。クラウド会計ソフトのfreee、クレジットカード決済サービスのコイニーなどへ投資した実績がある。

グループ内に金融機関を有する楽天グループでは、CVCの楽天キャピタルを通じて、規模1億ドルの「楽天FinTechファンド」を2015年11月に運用開始した。出資先はビッグデータを活用した信用査定サービスを提供するKreditech(クレディテック)などだ。なお、同社ではFinTech以外に、EC分野やライドシェア分野などに特化したファンドも保有している。

地銀では、2017年6月に南都銀行が出資総額10億円となる「ナントCVCファンド」を設立した。FinTech分野に投資実績のあるベンチャーラボインベストメントと共同運営することで、同行にとって新しい試みとなる、CVC運営を円滑に進める狙いがある。今後、AIやインターネット関連技術を持つベンチャーへの投資が期待される。

企業存続の鍵を握るCVC

リーマンショック以降、企業は内部留保を厚くしてきたと言われる。2017年9月に公表された法人企業統計では、2016年度の利益剰余金が過去最高の406兆円となった。10月の衆院総選挙で希望の党が公約の中で企業の内部留保への課税について言及したこともあり、特に関心を集めた数値である。

内部留保の増加は、財務健全性の観点からは好ましい状態だが、企業が成長のための投資をためらっているのであれば、前途は明るいとは言えない。自己資本を活かして、本業へのシナジーを生む可能性のあるベンチャーに投資を行うCVCは、新たな成長の方程式となり得るものだ。

そればかりか、巨大企業がイノベーションのジレンマに陥らずに生き残る手立ては、有望ベンチャーを意識的に取り込んでいくことより他にはないだろう。そういう意味で、CVCは企業存続の鍵を握る仕組みと言えるのかもしれない。

(提供:MUFG Innovation Hub

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(写真=Michael R Ross/Shutterstock.com)