Home / 人工知能/AI / 「Neural Lace」脳から直接コンピューターに指令する未来 最新のワイヤレスBMIを開発するNaturalinkとは?

「Neural Lace」脳から直接コンピューターに指令する未来 最新のワイヤレスBMIを開発するNaturalinkとは?

神経科学研究企業Naturalinkが、AI(人工知能)を人間の脳に融合させる技術開発を進めている。Naturalinkはテスラ、スペースXの設立者兼CEO、イーロン・マスク氏が設立した。

AIを人間の脳に融合する、つまり「パソコンやキーボードなどのデバイスを使わずに、直接コンピューターとやりとりを行う」未来が、当たり前の光景となるのだろうか。

脳とコンピューターを接続する技術「Neural Lace」とは?

(写真=sdecore/Shutterstock.com)

「Neural Lace(ニューラル・レース)」とは、コンピューターと人間の脳を融合させる先端技術だ。

脳を外部装置と接合するという発想自体は、決して新しいものではない。脳活動によってパソコンなどの機械を操作したり、脳に直接刺激を与えることで感覚器を介さずに映像をインプットする「ブレイン・マシーン・インターフェース(BMI)」という技術は、2000年から盛んに研究されてきた。

Neural Laceでは細い注射針を用いて、特殊な超薄型のメッシュ(網目織り)を頭蓋骨に埋め込む。このメッシュは脳内で電極の集合体を形成し、脳と外部(AI)を接合するインターフェースの役割を果たす。
「異物」は徐々に脳内に定着、成長し、位置やサイズを変化させて行くこともあるという。

Neural Laceの語源 は、スコットランドの作家、イアン・M・バンクス氏のSF作品シリーズだとの説もあるが、正確なところは明らかになっていない。

テスラやスペースXを通して、さまざまな革命を社会に送り出して来たイーロン・マスク氏は、この技術の実用化を目指し、新たな事業、Naturalink を立ち上げた。

「人間には高帯域幅視覚インターフェースが備わっている」

マスク氏は脳とAIを接続することで、一体何を目指しているのか。

2016年、カリフォルニアに設立されたNaturalinkの目的や具体的な取り組みについては、水面下で静かに進行する、謎めいたプロジェクトという印象が強い。

設立当初、共同設立者であるBMI開発者マックス・ホダック氏は、「Naturalinkは生まれたばかりの企業で、具体的な計画も流動的であるため、詳細を公にする段階には至っていない」と、慎重なスタンスを示していた。

ウェブサイトには現時点(2017年9月)も技術者募集の広告しか掲載されておらず、研究・開発の進行状況などについては一切語られていない。

そこで、これまでのマスク氏自身の発言からNaturalinkの全貌を探ってみよう。

2016年6月に開催されたデジタル・マーケティング・イベント「Code Conference」に参加した際、同氏は計算論的神経科学(脳を情報処理機械に見立て、その機能を調べる脳研究の一種)の見解から、「人間の出力レベルは非常に低い」と語った。

分かりやすく説明すると、データや情報、命令などを外部へ出す機能が劣っているということだ。スマホの操作で、頭の中では何をしたいのか分かっているにも関わらず、指の動きがついていけないといった現象を、その一例としてマスク氏はあげている。

しかし「人間には高帯域幅視覚インターフェースが備わっている」ため、実際の出力レベルは遥かに優秀であると確信している。

ニューロチップ設計者からナノテク研究員までが集結するNaturalink

またマスク氏から直接取材依頼を受けたブログ・メディア「Wait But Why」のティム・アーバン氏が、Neural Laceに関する非常に理解しやすい解説と共に、Naturalinkの野望についても紹介している。

マスク氏は「特定の変化(恐らくテクノロジーを指すのではないかと推測)によって、人間が考えうる中で最高の未来を手にする可能性が高まる」と考えている。そして「大きな変化は、人間が働きかけることで、より早く実現する」と確信している。

一言でいうと、Naturalinkが開発を試みているのは、最新のワイヤレスBMIだ。AIチップの開発に成功すれば、従来のBMIのようにワイヤーで装置と接続する必要なく、脳で考えたことを直接伝達可能になる。

NaturalinkにはIBMやスタンフォード大学でニューロチップの設計を手掛けたポール・メロラ氏、ローレンス・リバモア国立研究所ナノテク研究センター主任研究員、ヴァネッサ・トロサ氏、マサチューセッツ工科大学で電気工学及びコンピューター科学の博士号を取得した神経外科医、ベン・ラポポート氏など、選り抜きの頭脳が集結している。

AIの暴走を食い止める手段?

興味深いのは、マスク氏がBMIの開発に乗り出した真相だ。

数年以内には脳梗塞やがん陰影、先天的な脳疾患など、重度の脳障害の治療に役立つ「何か」を、市場にもたらすことを目標としている――とマスク氏は語っている。

研究・開発を継続するうえで、資金源となる商業的なアプローチは必須であるが、商業的な利益を超過した意図がある可能性も考えられる。

マスク氏は以前から、人類にとってAIがリスクへと変わりかねない危険性を警告している。2014年にマサチューセッツ工科大学航空宇宙学科の100周年イベントで、AI開発を「悪魔の召喚」と例えたのを皮切りに、つい最近も全米知事協会で「AI規制」の必要性を呼びかけた。

人間がAIを過信、あるいは軽視し続けた結果、いずれ映画「ターミネーター」のような世界が現実化しても、不思議ではないというわけだ。あくまで憶測の範囲だが、Naturalinkは人間の脳とAIを融合することで、人間が主導権を維持できる方法を模索しているのかもしれない。

ICチップが当たり前の時代

このような開発がどこまで人間に受け入れられるのか――という点も気にかかる。

PEW研究所が米国で2016年に実施した調査では、本来の能力を増強目的で脳にチップを埋め込むという発想に、69%の回答者が拒絶反応を示している。

脳に異物を注入するというイメージに対する嫌悪感もあるだろうが、73%が「格差社会が悪化する」と答えている。これらの回答者は、能力増加手術のコストが庶民には手の出ない範囲になると推測し、「富裕層に限られた特権になる」との見解を示している。

これに対しマスク氏はレーシック手術と同じくらいのコストで提供できるAIチップを目指しているという。

アンケートでも意見が多かった懸念点の「コスト面」がクリアされれば、レーシックやペースメーカーなどと同じ感覚で、初期にみられた拒否反応も薄れるだろう。「AIチップが当たり前」の時代が訪れる可能性も高い。

もちろん、技術面自体で解決すべき課題も山積みだ。一般人を対象とした実用化には、まだまだ時間を要するだろう。

(提供:MUFG Innovation Hub

【編集部のオススメ MUFG Innovation Hub記事】
ペアトレードの新たな武器になるカブドットコム証券&アルパカの「AI」ツール
MUFG Digitalアクセラレータ第2期/日本橋兜町のオープンイノベーション拠点 “The Garage”
NVIDIAのモンスターGPU「Tesla V100」は、自動運転の未来をどのように変えるのか?
言葉の壁と機会損失の解消。インバウンド需要を捉えるTravelTechとは
民泊の宿泊先を決めるのは「レビューよりホストの顔」